固形がんに効く新しい免疫療法を山口大学が開発

2018年3月6日、国際学術誌『Nature Biotechnology』4月号掲載に先立つプレスリリースとして、固形がんに対して極めて治療効果の高いCAR-T細胞を山口大学の玉田教授らの研究チームが開発したと発表しました。

 

CAR-T細胞療法とはどんな免疫療法なの?

免疫療法の一つであるCAR-T細胞療法は、

患者さんから取り出した免疫細胞に遺伝子操作を施して

がんを攻撃する能力を高め、再び体の中に戻す治療法です。

 

これまでCAR-T細胞療法は、

急性リンパ性白血病などの血液がんでは著明な治療効果を発揮し、

米国などでは承認されていますが、

肺がんや胃がんのような固形がんでは効果は

まだ確立されていませんでした

 

今回、山口大学の玉田教授らの研究チームは、

マウスに様々なタイプのがん細胞を皮下接種した後、

新たに開発したCAR-T細胞、もしくは

従来型のCAR-T細胞を静脈注射しました。

結果、

従来型のCAR-T細胞を注射されたマウスの大部分は

がんで死亡したのに対して、新たに開発された

CAR-T細胞を注射されたほぼすべてのマウスでは、

がんが完全に排除され、長期の生存も認められました

 

CAR-T細胞療法とは

『免疫細胞を増強する受動免疫療法』で概要を述べていますが、

CAR-T細胞療法とは第4のがん治療法として

注目を集めている免疫療法の中でも、

免疫細胞の攻撃力を高める方法として、

がんを攻撃する免疫細胞や、

がんを攻撃する時の武器となる抗体を

自分の体の外で大量に作り、

体の中にもどすがん免疫療法の中の一つです。

 

CAR-T細胞療法の読みは、カーティーさいぼうりょうほう。

日本語に訳すと、キメラ抗原受容体T細胞療法といいます。

 

難しい単語が並んでいますが、ごく簡潔に言うと、

患者さんから取り出したがん細胞を攻撃する戦士であるT細胞に、

遺伝子操作で特定のがん細胞だけを捕まえることができる

捕獲あみ(キメラ抗原受容体)を取り付け、

その数を増やしてから、元の患者さんに戻す治療法です。

 

キメラ(キマイラ)は、ギリシャ神話にでてくる

頭がライオン、胴が山羊、しっぽが毒蛇の怪物です。

このことから、一つの個体に異なる遺伝子情報を持つものを

医学や理学系ではキメラと呼んでいます。

ドラクエのキメラはこんなだった

CAR-T細胞療法の問題点

前にも述べてますが、CAR-T細胞療法は

血液のがんに対しては著明な効果があるのですが、

がんの大部分を占める固形がんに対しては

ほとんど効果がありませんでした。

 

この理由として、CAR-T細胞療法では、

がん組織にたくさんのCAR-T細胞が集まってこれるのか?

その場所でさらにCAR-T細胞が増殖できるのか?

という点がネックになっていると考えられてきました。

この問題に取り組んだのが、山口大学大学院

医学系研究科・免疫学講座の玉田耕治教授らの研究グループです。

 

7×19 CAR-T細胞

同研究グループは、

免疫機能をコントロールする能力を

CAR-T細胞に追加して組み込むことで、

この問題が解決できるのではないかと考えました。

このような意図に沿って開発されたのが

『7×19 CAR-T細胞』

です。

この7×19 CAR-T細胞には、

IL(インターロイキン)-7と呼ばれるT細胞の生存と増殖を促進する機能

CCL19と呼ばれるT細胞や樹状細胞ががん局所に集まるように仕向ける機能

を産み出す能力がCAR-T細胞に新たに付け加えられました。

 

マウスによる実験と考察

7×19 CAR-T細胞による治療効果を見る試験は、

マウスに様々なタイプのがん細胞を皮下接種し、

がんの形成が確認できたマウスに対し、

  • 無治療のもの
  • 従来型のCAR-T細胞を静脈注射したもの
  • 『7×19 CAR-T細胞』を静脈注射したもの

で生存率を見ていきました。

7×19 CAR-T細胞接種後のマウスの生存率

結果は、上に示した図の通りで、

従来型のCAR-T細胞を投与したマウス群では、

がんの増殖を抑えることができませんでしたが、

『7×19 CAR-T細胞』を投与されたマウス群では、

がんの増殖が抑えられ、

ほぼすべてのマウスのがんが排除され、

長きにわたって生存しました

 

なぜ、このような劇的な結果が生まれたのでしょうか。

 

7×19 CAR-T細胞を投与されたマウスの腫瘍内部で

どのようなことが起こっているのかを観察したところ、

 

腫瘍内部に『7×19 CAR-T細胞』だけではなく、マウス本来の免疫細胞である樹状細胞やT細胞も集まってきている

それらが、腫瘍内部にまで入り込んできている

マウスが本来持っているT細胞を除去してしまうと、7×19 CAR-T細胞の効果が弱まってしまう

7×19 CAR-T細胞を投与し、がんが排除されたマウスに100日以上経過してから再びがんを接種しても、がんは増殖できない

 

ということが観察されました。

 

これらのことから、

7×19 CAR-T細胞を投与することにより

・本来持っているT細胞や樹状細胞が固形がんの内部にまで入り込んでくる

・7×19 CAR-T細胞と、本来持っているT細胞や樹状細胞が協力して強力な治癒パワーが発揮される

・がん細胞に対する長期的な免疫記憶が形成される

ということが判明したのです。

 

今後、実用化に向かって研究グループは、

山口大学発のベンチャー企業である

ノイルイミューン・バイオテック社と協力して、

2年以内に臨床試験が開始できるよう開発を進めていくそうです。

少しでも早く治療法として確立されるといいですね。

 

 

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